自分でやらせる 特養

介護福祉士 資格証

 

こんにちわ、介護福祉士みきこです。

 

「できることは自分でやってほしい」という考え、確かにその通りです。

入居者の自立を促すことは大切ですし、介護現場でも基本的な考え方の一つです。

しかし、実際の特養の現場で、「時間がかかりすぎても見守るべきだ」と言われると、正直なところ、現実的ではありません。

 

食事に2時間、着替えに30分、トイレに1時間…そんなふうにすべてを本人のペースに合わせると、他の入居者のケアが回らなくなり、施設全体の運営に支障が出てしまいます。

「できることを奪わないで」と言われることもありますが、そもそもなぜ特養を利用しているのかを考えてほしいのです。

 

ここはリハビリ施設ではなく、要介護度の高い方が生活する場です。

介護スタッフは限られた人数で、多くの入居者をケアしなければなりません。

バランスを取ることが必要であり、そのためにどこまで本人のペースに合わせるべきなのか、施設側と家族でしっかり話し合う必要があります。

 

介護施設は「自宅」ではないという現実

 

ご家族の中には「できる限り自分でやらせてほしい」「家にいたときと同じようにしてほしい」と強く希望される方がいます。

 

その気持ちはわかります。

 

自宅では家族の手が空いていればいくらでも見守れますし、時間がかかっても問題ないかもしれません。

しかし、特養は自宅ではなく、介護を必要とする多くの人が共同生活を送る場です。

1人の入居者が「時間がかかってもできる限り自分でやる」ことを優先すると、その間に他の入居者の介助が滞ることになります。

朝の着替えや食事、トイレなど、すべてに時間をかけていると、介護スタッフがほかの入居者のケアをする時間がなくなり、結果的に施設全体の運営に影響を及ぼします。

 

例えば、食事介助に2時間かかる方がいる場合、他の入居者の食事を見守ったり介助したりする時間が取れなくなります。

すると、「もっと早く食べ終えられる人」が待たされることになり、不満が生じることもあります。

つまり、施設の運営は一人の入居者だけではなく、全体のバランスを考えながら行わなければならないのです。

 

 

 

できることを奪うな」は本当に正しいのか?

 

「本人ができることを奪わないでください」と言われることがあります。

確かに、自立を支援することは介護の基本です。

しかし、「できること」と「時間がかかりすぎること」は別問題です。

 

例えば、着替えに2時間かかる方がいた場合、本当にその時間をかけることが本人のためになるのでしょうか?

あるノンフィクション映画で、「手伝ってもらえば、その2時間をもっと他のことに使える」と語った要介護者がいました。

これは非常に重要な考え方です。

介助を受けることで余裕ができ、その時間をレクリエーションや散歩、他の活動に使うことができるのです。

 

また、「できることを奪うな」という言葉には、「手伝うこと=悪いこと」というニュアンスが含まれているように感じます。

しかし、介護の目的は「本人が安心して生活できること」です。無理をして時間をかけることが本人の負担になる場合もあるのです。

 

 

 

すべての入居者に同じ対応をすると、現場は回らない

 

介護の現場では、1人の入居者にかかりきりになってしまうと、他の入居者の介助が遅れたり、食事や排泄などの支援が必要な方への対応ができなくなることがあります。

現実問題として、「全員に平等に手をかける」ことは難しいのです。

 

例えば、ある入居者が食事に2時間かかる場合、その間に他の入居者が待たされることになります。

施設では、限られた職員で多くの入居者を支援しなければならず、「できることは自分でやる」という原則は大切ですが、現実的な対応を考える必要があります。

 

また、厨房や清掃スタッフにも影響が出ることがあります。

例えば、食事の時間が長引けば、厨房の片付けが遅れ、次の食事の準備に支障が出ることもあるのです。

このように、すべての人に時間をかけることができるわけではないという現実を理解していただきたいと思います。

 

 

 

「リハビリ」と「介護」は別のもの

 

もし「できる限り本人のペースでやらせたい」という希望が強い場合、特養ではなく、リハビリを中心に行う施設を選択する方が適しているかもしれません。

特養はあくまで「生活の場」であり、「リハビリの場」ではないため、長時間かけてリハビリのように見守ることは難しいのが現実です。

もちろん、特養でも機能訓練を行うことはありますが、それが主目的ではありません。

「できることを維持するために時間をかけたい」と強く希望するなら、老健(介護老人保健施設)などの選択肢も検討すべきでしょう。

 

 

 

本当に「在宅介護」が無理なのか?

 

「できることを奪わないで」と強く主張されるご家族の中には、「自宅で介護するのは難しい」と言って施設を利用するケースもあります。

しかし、もし本人のペースを最優先するなら、自宅で介護を続けるという選択肢もあるはずです。

施設はあくまで「施設のルール」で運営されています。

それが納得できないのであれば、「なぜ施設を利用するのか?」という根本的な部分を考え直す必要があるかもしれません。

特養に入居する理由は、「自宅では介護が難しいから」というケースが多いはずです。その場合、施設の運営方針にある程度は従う必要があるのではないでしょうか。

 

 

 

介護現場のリアルを知っていますか?

 

ご家族の中には、「職員がもっと手厚く対応してくれれば」「もう少し時間をかけて見守ってくれれば」と考える方もいるかもしれません。

しかし、実際に現場を見たことがあるでしょうか?介護職員は、1人の入居者に長時間付きっきりで対応できるほどの余裕があるわけではありません。

 

例えば、特養の職員配置基準では、「入居者3人に対して職員1人」が基本とされています。

しかし、これはあくまで理論上の話であり、実際には夜勤時などはさらに少ない人数で対応しなければならないこともあります。

つまり、「1人の入居者が着替えに1時間、食事に2時間かかる」という状況が続くと、他の入居者のケアが後回しになってしまうのです。

 

また、職員は食事や排泄介助だけでなく、記録業務、レクリエーションの準備、見守り、入浴介助など、さまざまな業務を同時進行で行っています。

  • 「この人には時間をかけるべき」
  • 「でも他の人も待っている」

このジレンマの中で、限られた時間内にできる限りのケアを提供しようと努力しているのが現場の実情です。

 

ご家族が「もっと手厚くやってほしい」と希望する気持ちは理解できますが、それを実現するには、職員を増やすか、マンツーマン介護が可能な施設(有料老人ホームなど)を選ぶ必要があります。

特養はあくまで、「多くの入居者が快適に暮らせるように運営されている施設」なのです。

 

 

 

バランスを取ることが大切

 

「できるだけ本人のペースで」という考えは尊重したいですが、施設全体の運営を考えた場合、それがどこまで許容されるのかを考える必要があります。

例えば、食事に2時間かかる方の場合、「最初の30分は自分で食べてもらい、残りの30分は介助する」といったバランスを取ることが大切です。

すべてを本人のペースに合わせるのではなく、「どこまでを自分でできるようにするか」「どこからを職員が手伝うか」を話し合うことが重要です。

施設では定期的に担当者会議を開き、家族と話し合う機会があります。

その場で、「できるだけ自分でやることを優先するのか、それとも生活リズムを整えることを優先するのか」を検討することが必要です。

 

また、施設によっては「個別対応」が可能な場合もあります。

例えば、追加料金を支払うことで、職員が特別に見守る時間を増やすことができるケースもあります。

「どうしても本人のペースを最優先したい」という場合は、そのような選択肢も検討してみると良いでしょう。

 

 

 

ご家族の理解と協力が必要

 

介護施設は、入居者本人だけでなく、家族とも連携しながらケアを進めていく場所です。

そのため、ご家族にも「特養とはどういう施設なのか」をしっかり理解していただくことが重要。

「できる限り自分でやらせてほしい」という気持ちはわかりますが、その一方で、施設には施設のルールがあることも理解してほしいのです。

 

例えば、「食事を2時間かけて食べさせてほしい」と言うのであれば、「その間、他の入居者の食事介助はどうするのか?」という視点も考えていただく必要があります。

もし「家族が面会に来るときだけ、食事介助を担当する」という形で協力できるのであれば、それも一つの解決策になるでしょう。

また、入居者本人の気持ちも大切ですが、「自分でできることはやるべき」「すべてをサポートするべき」といった極端な考え方ではなく、「できることはできる範囲で、できないことは助けてもらう」という柔軟な視点を持つことが大切です。

 

 

 

「特養で何を優先するのか」を考える

 

最後に、特養での生活の目的を改めて考えてみることが重要です。

特養は、「できる限り本人が自立した生活を送ること」を目的としながらも、「他の入居者との共同生活をスムーズに行うこと」も大切な要素の一つです。

そのため、「すべてを本人のペースに合わせる」ことが必ずしも最善とは限りません。

 

施設としては、「本人の自立支援」と「施設の運営の効率化」の両方を考えながら対応しています。

したがって、「できる限り自分でやらせるべきか、それとも職員が適度にサポートするべきか」というバランスを取ることが、最も大切なポイントになります。

「できることを奪わないで」と強く主張することも、「すべて職員がやるべき」と考えることも、どちらも極端な考え方です。

 

理想的なのは、入居者本人の負担を軽減しつつ、職員の負担も考えた「現実的なバランス」を見つけることです。

そのためには、ご家族が施設側としっかり話し合い、「どこまでを本人のペースで行い、どこからを職員が手伝うのか」という基準を明確にすることが重要になります。

最終的には、入居者本人にとって快適な生活を送れるようにすることが、何よりも大切なのです。

 

 

 

まとめ

 

特養は、「すべてを本人のペースに合わせる場所」ではなく、「本人の自立を支援しつつ、施設全体の運営をスムーズに進める場所」です。

「できるだけ自分でやらせたい」という希望は尊重されるべきですが、そのために他の入居者や職員の負担が増えすぎると、施設全体の運営に支障をきたします。

  1. 介護施設は自宅ではない
  2. 「できることを奪うな」は必ずしも正しいわけではない
  3. すべての入居者に同じ対応をすると現場が回らない
  4. リハビリと介護は別のもの
  5. 在宅介護の選択肢を考えることも必要
  6. 介護現場のリアルを知ることが大切
  7. バランスを取ることが重要
  8. ご家族の理解と協力が不可欠
  9. 特養で何を優先するのかを考える

この9つのポイントを踏まえて、ご家族と施設側がしっかり話し合い、本人にとって最適な介護方法を見つけることが、最も大切なことなのではないでしょうか。

 

特養は、入居者一人ひとりが快適に過ごせるように、限られた資源の中で最善を尽くしている場所です。

そのことを理解し、協力しながら、より良い介護の形を模索していきましょう。