
高齢者へ介護サービスを提供する介護職ですが、介護士として働くなかでどうしても直面することのひとつに、利用者さんの「死」があります。
特に特養や老人ホームで勤務している介護士の場合だと、さらに利用者さんの人生の最期と向き合う機会は多いといえるでしょう。
そこで今回は利用者さんが施設で人生の最期を迎える際に、事前に同意を得る「看取り介護の同意書をもらうときの心境」について解説していきます。
介護施設で行う看取り介護とは
看取り介護の同意書について解説する前の前提知識として「介護施設で行う看取り介護」について簡単に解説していきます。
私たちが生活する日本では「自宅で家族に見守られながら最期の時を迎えたい」と考える方が多く、古くより自宅で人生の最期を迎える風習が一般的でした。

しかし近年では「家族に負担をかけたくない」などの理由から、病院や介護施設で最期を迎えることを希望する方が多くなっています
そんな場合に介護施設では看取り介護が行われることになります。
看取り介護とは、人生の最期が近い利用者さんに対して死に至るまでの期間をその方なりに、充実した終末期を過ごして頂けるように援助すること。
つまり、その人らしく最期を迎えられるようにお手伝いするということです。
もちろんこの看取り介護は利用者さん本人やご家族の同意がなければ行うことはできませんし、やはり人生の最期に関わることなので事前に看取り介護について説明・同意を得ておくことが必要です。
この際に必ず必要になるのが「看取り同意書」になります。
看取り介護の同意書とは

看取り介護は、容体の回復が見込めないと医師が判断した場合にご家族に説明を行うことから始まります
容体の回復が見込めないことから「延命治療などの医療行為を一切行わない」といったことを十分に説明し、ご家族がしっかりと理解したうえで看取りの同意書を得ることになります。
この看取り介護をご家族に説明するタイミングはとても難しく、看取り介護の説明をしようとしていた矢先に突然お亡くなりになることもあります。
ご家族に説明する目安としては「食事を食べることができなくなってきた」「身体が衰弱してきた」タイミングが一般的ですが、利用者さん本人の状態を考慮しながら、説明するタイミングを慎重に検討することが重要だといえます。
介護施設での看取り介護の流れ

ここからはどのようにして介護施設で看取り介護が行われるのか、一連の流れをみていきましょう
介護施設での看取り介護の流れは次のとおりです。
・入所時
・安定期・低下期
・看取り期
・看取り後
それぞれ順番に解説していきます。
入所時
介護施設に入所して新しい環境に適応する時期です。
入所前には看取りについて重要な説明を行なっておく必要があります。
例えば「施設の看取りに対する理念」や「病院と介護施設での看取りの違い」といったことを、イメージしやすいように説明しておくことが重要です。
またこの際に、今後看取り介護の同意書をいただく場合があることを説明しておくことで

「いつかその日がくる」ということを、ご家族も理解しやすいといえるでしょう
安定期・低下期
入所したばかりは身体が元気な状態であっても、病気や加齢の影響から身体的な衰弱が始まります。
この頃から利用者さん本人やご家族と、今後についての話し合いや説明を行なっていくことになります。
看取り期
食事を摂取できなくなったり、身体の衰弱が著しい場合や医師が医療的に回復が見込めない状態と判断した場合は、医師からご家族に説明が行われます。

この際にご家族から看取りの同意書をとったり、看取り後の手順の確認を行います
また利用者さんが亡くなった後に行うお葬式の相談などにも対応します。
看取り後
看取り後は事前に確認した手順に沿って手続きなどを行います。
以上が介護施設での看取り介護の流れです。
今回は大まかに解説しましたが、実際は人の死に関することなので、利用者さん本人やご家族に対してきめ細かい配慮や心遣いが求められます。
看取り介護の同意書をもらうときに考えてしまう事
介護職は「感情労働」といわれているように、自分自身の感情をコントロールすることが求められる職業です。
ですから特定の利用者さんに対して過度に感情移入をしてしまったり、特別な感情を抱いたりするのは良くないとされています。
とはいっても、やはり介護職も人間なので共に過ごしてきた利用者さんに対して情や親近感のような感情をもってしまうことは少なくありません。

そんな長い時間を共有してきた利用者さんの看取り介護の同意書をもらう瞬間というのは、やはり何ともいえない気持ちになることが多いです
「あの時は楽しかったな」「あの時は大変だったな」と今までの出来事を思い返すこともありますが、やはりそれよりも考えてしまうことがあります。
それは「その人らしい最期とは何か」「自分には何ができるだろう」ということです。
もちろん介護士は日頃から「利用者さんのために何ができるのか」を考えていますが、看取り介護はそれとは違った特別な意味をもっています。
「その人らしく充実した最期を迎えられるように…」
私を含めた多くの介護士は、このように考えて看取り介護に向き合っているといえるでしょう。
最期を迎えた利用者さんのエピソード

ここからは、私が過去に利用者さんの最期と向き合ったエピソードをお話ししていきます
これは、私が地元を離れて有料老人ホームで働いていた頃の話です。
当時の私は地元を離れ入社したばかりだったこともあり、なかなか職場に馴染むことができず日々の業務にストレスを感じながら働いていました。
そんな私の唯一の楽しみが、自分の休憩時間に利用者のAさんと会話をすることたっだのです。
私とAさんは出身地が同じだったこともあり、2人で話す際はいわゆる「方言」で話すような仲になっていました。
その当時のAさんは軽度の認知症を患っていたこともあり、記憶力の低下が始まっていた時期でもありましたが、なぜか私のことは「自分の孫」と認識してくれていて、私が居室に入ると「おう。また来たんか。」と毎回笑顔で迎えてくれていました。
このような表現は良くないのかもしれませんが、私は祖父を早くに亡くしていたこともあり、Aさんを本当のおじいちゃんのように感じていたのかもしれません。
しかし私は自己都合によりその職場を数ヶ月後に退職してしまい、それっきりAさんに会うことはなくなってしまったのです。
そして退職から3年後、元同僚からAさんが亡くなったと連絡を受けました。
元同僚は「Aさんはお前のことを本当の孫だと思っていると言っていた」「出身地の話をしたことを楽しそうに話していた」と、認知症のAさんが最期まで私のことを覚えていてくれたことを話してくれたのです。
その話を聞いた時は涙が止まらなくなり、今まで忘れていたAさんとの思い出があふれてきたのを今でも覚えています。
これが過去に利用者さんの最期と向き合った私のエピソードです。

私はこの体験から、利用者さんとの向き合い方を考えることが増えました。
私たち介護士は、仕事の一環として利用者さんと向き合うことが多いと思います。
その考え方自体は間違いではありませんし、否定されるものでもないです
しかし利用者さんからすると、介護士の存在は「家族」のような存在かもしれませんし人生の「支え」になっている場合もあります。
ですから私は利用者さんの「心の支え」になれるように、今後も介護士として働き続けていきたいと考えています。
まとめ
介護施設で働くなかで向き合うことになる利用者さんの死。
できれば考えたくないことですが、その際に必ずもらわなければいけないのが看取り介護の同意書です。
日々の業務のなかで利用者さんの死を意識することは多くないですが、誰もがいつか必ず最期を迎えます。
利用者さんに「ここで最期を迎えられてよかった…」と思って頂けるように「考え」「向き合う」ことが、私たち介護士の仕事だといえるのかもしれません。